マニキュア

 

 

いつからか、ずっと、女性らしく振る舞わないように過ごしてきた。別に何があった訳でもないけれど、ただなんとなく、女性独特の艶かしさが、幼い自分には気持ち悪いものでしかなかったのだと思う。小学生の頃から、そうやって過ごしてきた。

 

小学生の頃は、お昼休み、男の子に混じってドッジボールをして、男の子に負けないくらい強くて、そのまま中学に上がって、制服以外にあんまりスカートを履かなくなって、女の子らしい小物も持たなくなって、持っていれば友達にからかわれたから余計に持たなくなって、相変わらず男子からも強い女と思われていて、女子からはサバサバしていて接しやすいとでも思われていたんだと思う。中性的に生活していたおかげだろう、先輩後輩男女問わず、仲良く過ごしてきた。

 

中学生の時、教室の窓ガラスが割れて、それを怖がっていた女の子、高校生の時、地震があって、泣きながら怯えていた子、ジェットコースターが苦手だった子、注射を心底嫌がって保健室で寝ていたあの子、いつも寒がっていた子、か弱そうにしていた子、それって女性らしさ?と今更疑問に思う場面もあるけど、でも、私は、そういう人たちが、本当は羨ましかったのだと、随分時を経て、思う。

 

私もあの時、あの時も、あの時も、あの子みたいにしたかったんだ。ぶりっ子したい訳じゃなくて、変に強がらないで、普通の女の子がするみたいに、振る舞いたかった。全て自分で決めてしてきたことだから、自分を恨む以外の事ができないのだけれど…

 

 

ピンク色のもの、可愛いキャラクターのもの、ひらひらフリフリの洋服(は、そもそも好みではないけれど)(否、それすらもわからない)、女性らしい仕草や言葉遣いも、全部全部敢えて避けてきた。それによって仲良くなれた人や、得したことや、良いことも沢山あった。

 

 

社会人二年目の頃だったか、職場の上司に、「私女性らしいものを遠ざけて生きてきたんです」みたいなことを、自虐的に話したことがあった。その時彼女が、「どうして隠す必要があるの?好きな事をしたらいいじゃない。」と自然に言ってくれて、その言葉がその後の生き方を変えてくれた。

 

本当はずっと好きだったキャラクターの小物を買ったり、少し女性らしい服を着てみたり、言葉遣いもマシになった。(旧友に会うと時々飛び出すけど)

 

今だに昔のままなことは多いけれど、それでもだいぶ、生きやすくなったんではないかな、と思う。

 

 

 

 

 

 

マニキュアを塗りながら、そんな事を思い出していた。初めて塗る、ピンク。ちょっと後ろめたいというか、気持ち悪いというか、そんな思いはある。昔の自分だったら、というか、露骨にピンクというのは、ついさっきまでの自分だったら、ありえなかったこと。

 

でも変だと思っているのは、一番そう思っているのは、唯一そう思っているのは、自分なんだよねぇ。これまでもずっと、自分が自分を勝手に律して罰して責めて嘲けて笑って、がんじがらめにしていたんだよねぇ。

 

 

そして日々は代わり映えしないんではなくて、自分が変えようとしていないだけだねぇ。

 

私は今日、ピンク色のマニキュアを塗って、少しだけ、変わった。一瞬でいいんだ。

 

 

 

 

(エモ)